歯と歯ぐきの間にある溝が深くなることでできる歯周ポケット。
歯周ポケットは歯周病と関わりがあり、深くなるほど日常的なケアでは回復が難しくなります。
どのくらいの深さであれば、日常的なケアで回復できるのでしょうか。
今回は、歯周ポケットの特徴や回復できる深さの目安、歯周ポケットの深さを回復するためのケア方法を詳しく紹介します。
歯周ポケットとは?
歯と歯ぐきの間には「歯肉溝(しにくこう)」と呼ばれる溝があります。
プローブという歯肉溝の深さを測る器具で測定します。
健康な歯ぐきの深さは1〜3mm程度です。
この歯肉溝に歯垢(プラーク)が溜まり、歯垢の中にいる歯周病菌により歯ぐきが炎症を起こすと溝が深くなっていきます。
この深くなった溝を「歯周ポケット」と呼びます。
歯周病は歯ぐきの腫れや出血、口臭、膿などの症状を引き起こし、進行すると歯を支える骨(歯槽骨)を溶かして歯が抜け落ちてしまうことがある病気です。
歯周病が進行すると歯周ポケットが深くなり、さらに歯垢が溜まりやすくなって歯周病が悪化しやすくなります。
引用元:厚生労働省e-ヘルスネット
歯周ポケットの深さ
ここでは、歯周ポケットの深さの測定方法、深さ別の歯周病の進行度合いについて紹介します。
歯周ポケットの深さを測定
前述したように、歯周病の検査では、プローブという目盛りのついた針状の器具を歯と歯ぐきの間に差し込んで歯周ポケットの深さを測ります。
炎症を起こしていると出血しやすくなるため、このときに出血の有無も確認します。
歯周病は症状の進行段階により歯肉炎・軽度歯周炎・中度歯周炎・重度歯周炎(歯槽膿漏)に分類することができ、歯周ポケットの深さや出血の有無などを確認して判断されます。
自分では測れないため、歯科医院での検診で測定してもらいましょう。
歯周ポケットが深さ3mm以下の場合は健康な状態
歯周ポケットが深さ3mm以下の場合、歯ぐきは健康な状態と判断されます。
深さ3mm以上になると歯垢や歯石が溝に溜まりやすくなり、歯周病菌の毒素による刺激で歯ぐきが腫れたり出血したりすることがあります。
この段階を歯肉炎と呼びます。
歯周ポケットが深さ4mm〜5mmの場合は軽度の歯周病
歯肉炎が進行して歯周ポケットが深さ4mm〜5mmになると、軽度の歯周病(軽度歯周炎)と判断されます。
軽度の歯周病になると、出血・腫れ・口臭・冷たいものがしみるといった自覚症状が出てきます。
また、歯周ポケットが深くなることで、歯が長くなったように見える場合も多いです。
軽度の歯周病が進行すると中度歯周炎となり歯ぐきの炎症が広がり、歯を支える歯槽骨が溶け始めて歯がぐらつくようになります。
歯周ポケットが深さ6mm以上の場合は重度の歯周病
歯周ポケットが深さ6mm以上になると、重度の歯周病(重度歯周炎)と判断されます。
重度の歯周病は膿や歯根の露出といった症状が現れます。
歯槽骨が破壊されて歯を支える力が弱まると、歯がぐらついて抜け落ちてしまう場合もあります。
深くなった歯周ポケットは治るの?
歯周ポケットが深さ3mm以下の健康な歯ぐきの場合、日常的なケアで口腔内の状態を清潔に保つことで歯周病のリスクを抑えられます。
軽度歯肉炎の場合も、日常的なケアを適切に行うことで健康な歯ぐきを取り戻すことができます。
ただし、歯肉炎は目立った痛みや腫れがなく、症状に気づかずに進行してしまうことがあるので注意しましょう。
深さ4mm以上の歯周ポケットがある場合は、日常的なケアとあわせて歯科医院での治療が必要です。
深くなった歯周ポケットは適切な治療により回復可能ですが、状態によって治療方法は異なります。
歯周ポケットの一般的な治療手順・方法は以下の通りです。
歯周病検査・診断
歯周ポケット検査・動揺検査・レントゲン検査・CT検査などを行い、歯周病の進行度合いを診断します。
歯周基本治療
歯周病の治療ではブラッシング指導やスケーリング・ルートプレーニングにより、歯垢や歯石の除去を行うのが基本です。
<ブラッシング指導>
染め出し液を使って磨き残しを確認した後、歯科医師や歯科衛生士によるブラッシング指導を受けます。
歯周ポケットの深さが3mm以下で治療の必要がない場合は、ブラッシング指導を受けて終了することがあります。
<スケーリング・ルートプレーニング>
スケーリングはスケーラーという専用器具を使い、歯ぐきの上や歯周ポケットの中の歯垢や歯石を除去する処置です。
スケーリング後、専用器具を使って細菌に汚染された歯根の表面を削り取り、滑らかにするルートプレーニングという治療を行います。
ルートプレーニングを行うと再び歯石がつくのを予防でき、歯ぐきが歯根の表面にくっつきやすい状態にすることができます。
深さ6mm以内の歯周ポケットの場合、これらの治療により深さが回復することがあります。
不適合な詰め物や被せ物がある・噛み合わせが悪いといったときは、歯垢や歯石が溜まりやすくなります。
そのため、詰め物や被せ物、噛み合わせの確認をし、必要であれば調整を行うこともあります。
歯周外科処置
歯周基本治療で歯周ポケットの深さが回復できない場合、以下のような歯周外科処置を行います。
<歯周外科治療(フラップ手術)>
歯周ポケットが深さ6mm以上あると、そのままでは深いところに入り込んでいる歯垢や歯石を除去できません。
歯周外科治療(フラップ手術)は歯ぐきを切開して歯根面を露出させ、歯垢や歯石を除去する治療です。
フラップ手術を行うことで、歯周ポケットの深いところにある歯垢や歯石を確認しながら取り除くことができます。
取り除いた後は歯ぐきを元の位置に戻して縫合し、1週間程度後に抜糸します。
<歯周組織再生療法>
歯周組織再生法は歯周組織再生誘導材料を使い、歯ぐきや歯槽骨を再生させる治療のことです。
歯周組織再生療法には、以下のような方法があります。
【エムドゲイン®法】
タンパク質を主成分としたエムドゲイン®ゲル(スウェーデンの企業が開発した特殊なタンパク質)を、歯周病菌により破壊された部分に塗って歯周組織の再生を促します。
【GTR(歯周組織再生誘導法)】
メンブレンという特殊な人口膜で歯周病菌により破壊された部分を覆い、歯周組織の再生を促します。
抜歯しなければならない場合もある
歯周ポケットが深く重度歯周炎になっており、歯周外科処置でも歯ぐきの回復が難しいときは、抜歯になる場合もあります。
歯周病は進行すると、歯周病菌の毒素が歯ぐきの血管から全身に入って糖尿病・心筋梗塞・肺炎・脳卒中などの病気を引き起こす恐れがあります。
女性の場合は、早産・低体重児出産を引き起こす可能性もあるので注意が必要です。
歯周病は早期発見・早期治療が大切です。
歯周ポケットの深さは自分では測れないため、歯科医院で検診を受けて測定してもらいましょう。
歯周ポケットの深さを回復するためのケア方法
歯周ポケットが深くなるのは歯と歯ぐきの間に歯垢が溜まり、歯垢の中の細菌により炎症が起こるのが原因です。
歯垢を残さないようにきちんと歯磨きをすると、歯ぐきが引き締まって歯周ポケット内に細菌が入り込みにくくなるので、適切なケアを行って歯垢を溜めないことが大切です。
ここでは、歯周ポケットの深さを回復するためのケア方法を5つ紹介します。
歯ブラシを見直す
使用している歯ブラシが自分に合っていないと磨き残しが多くなるため、以下のポイントを参考にして歯ブラシを見直してみましょう。
【ヘッドの大きさ】
歯ブラシのヘッドが大きすぎると、奥歯や細かいところまで届かずに磨き残しが増える恐れがあります。
歯ブラシのヘッドの大きさは上の前歯2本分を目安にして、自分に合うものを選びましょう。
【毛の硬さ】
毛の硬さは「ふつう」を選ぶのが基本です。
歯ぐきの痛みがあるときは「やわらかめ」を選ぶと良いでしょう。
【グリップ】
歯ブラシのグリップは、軽く握ったときにフィット感が良いものを選びましょう。
【交換時期】
歯ブラシは使っていくうちに劣化して清掃力が落ちていきます。
劣化した歯ブラシを使っていると歯や歯ぐきを傷める恐れもあるので、毛先が広がってきたり黄ばんできたりしたら交換するようにしましょう。
また、歯ブラシは水洗いをしても細菌が付着していることから、劣化が目立たなくても1ヶ月に1回を目安に交換することをおすすめします。
歯みがきの方法を見直す
歯垢をしっかり落とすには、正しい歯みがき方法を身につけることが重要です。
歯ブラシの持ち方・歯の磨き方を確認してみましょう。
【歯ブラシの持ち方】
歯ブラシは鉛筆のように持つ「ペングリップ」と手のひら全体で握って持つ「パームグリップ」があります。
ペングリップは余計な力が入りにくいため、歯や歯ぐきへの負担を抑えて磨くことができます。
パームグリップはしっかりと持って磨けるため、力が入りにくいお年寄りや握力が弱い方に向いています。
歯を磨くときは、自分に合う持ち方を選びましょう。
【歯の磨き方】
ゴシゴシと強い力で磨くと歯や歯ぐきを傷めてしまうため、歯ブラシの毛先が広がらない程度の適度な力で磨きましょう。
<歯の表側>
歯と歯ぐきの境目に歯ブラシを当て、歯ぐきをマッサージするように2〜3mm程度を目安に小刻みに動かして磨きます。
<歯の裏側>
歯ブラシを縦にして歯の裏側に当て、歯垢を掻き出すように磨きます。
奥歯の裏側を磨くときは、歯ブラシを斜め45度に傾けると届きやすいです。
<噛み合わせ部分>
歯の噛み合わせ部分の溝には歯垢は溜まりやすいため、歯ブラシを小刻みに動かして丁寧に磨きましょう。
<歯の根元>
歯ブラシを斜め45度に傾け、歯の根元(歯と歯ぐきの境目)に歯ブラシを当てて外側に歯垢を掻き出すように磨きます。
さらに、斜め45度に傾けたまま軽い力で前後に動かして、歯周ポケットに溜まった歯垢を除去しましょう。
<歯と歯の間>
歯と歯の間に毛先をとどめ、小刻みに動かしながら磨きます。
以下で詳しく説明する通り、歯間ブラシやデンタルフロスを併用すると歯垢を取り除きやすくなります。
歯間ブラシやデンタルフロスを使用する
歯と歯の間の歯垢をしっかりと除去するために、歯間ブラシやデンタルフロスを使用しましょう。
【歯間ブラシ】
歯間ブラシは歯と歯の間が大きい方に向いているアイテムで、歯と歯の間に入れて数回往復させて歯垢を除去します。
前歯に使いやすい「ストレートタイプ」と奥歯に使いやすい「L字タイプ」がありますが、ストレートタイプは折り曲げて角度をつけるとどの部分にも使えます。
歯間ブラシが大きすぎると歯や歯ぐきを傷める恐れがあるため、自分の歯と歯の間の幅よりも少し小さめのものを選びましょう。
【デンタルフロス】
デンタルフロスは弾力のある細い繊維の束で、歯と歯の間に差し入れてのこぎりのように前後に動かしながら歯垢を除去するアイテムです。
ホルダーにフロスが付いた「ホルダータイプ」と、必要な長さを切り取って指に巻き付けて操作する「糸巻きタイプ」があります。
指での操作が難しい方、初心者の方はホルダータイプが使いやすいでしょう。
歯みがき粉を見直す
歯周ポケットの深さを回復するには、歯垢除去や歯周病予防への効果が期待できる成分を配合した歯みがき粉を使用するのがおすすめです。
薬用歯みがき「アバンビーズ® グラン」には、ブラッシングをともなって歯垢を除去する生きた乳酸菌「WB2000 乳酸菌(清掃剤)」が生きたまま配合されています。
他にも、歯周病を予防する「β-グリチルレチン酸」・歯ぐきの炎症を抑える「塩酸ピリドキシン」などの薬用成分を配合しており、歯周病予防におすすめです。
歯科医院で定期的にクリーニングや歯石取りをする
歯科医院では、ブラッシングで落としきれなかった歯垢を除去するクリーニングや歯石取りを受けられます。
歯周ポケットの深さを回復するには、自宅のケアとあわせて歯科医院での定期的なメンテナンスが欠かせません。
歯周病は再発しやすい病気のため、治療後のケアが不十分だと再度歯周ポケットが深くなってしまうことがあります。
歯科医院で定期的に健診・メンテナンスを受けるようにして、歯の健康を守りましょう。
まとめ
歯垢は細菌の塊で、わずか1mgの中におよそ300種類1億個もの細菌が存在しているといわれています。
口の中はきれいにしているという方でも、正しいケアを行なっていない場合は歯と歯ぐきの間の溝に歯垢が残って歯周病菌が繁殖しているかもしれません。
歯周ポケットを深くしないためには、歯周病の発症・悪化を抑えることが大切です。
今回紹介した情報を参考にして、歯周ポケットを深くしないケアを行いましょう。
引用元:厚生労働省e-ヘルスネット