成人の約8割はかかっている(予備軍含む)といわれている歯周病。
歯周病は、進行度によって「歯肉炎」と「歯周炎」に分けることができます。
歯肉炎は、歯周病の中でも、比較的軽度な症状ですが、進行すると歯を失う恐れもあるので、歯肉炎のうちに正しいケアをし、進行を防ぐことが大切です。
この記事では、歯肉炎の症状や原因、歯肉炎になってしまった時の正しい対処法について解説していきます。
正しい知識をつけて、健康な歯と歯ぐきを守りましょう。
1.歯肉炎とは
歯の周辺組織に起こる不調のことを「歯周病」と呼びます。
その中でも、とくに歯ぐき(歯肉)のみに炎症が起こっている状態が「歯肉炎」です。
歯肉炎は、歯周病のなかでもまだ比較的軽度な症状であり、適切にケアをすることで健康な歯ぐきを取り戻すことができます。
1-1.歯肉炎の症状
歯肉炎の主な症状は以下の通りです。
- 歯ぐきの腫れ
- 歯ぐきの赤み
- 歯ぐきの出血
歯肉炎は、軽度の段階だと出血も少なく、目立った痛みや腫れもないため、症状に気がつかなかったり、「たいしたことないだろう」と放置してしまったりする人が多いです。
しかし、そのまま放置してしまうと症状はどんどん進行し、より悪化した「歯周炎」を引き起こしてしまうので注意が必要です。
健康な歯を失わないためにも、歯肉炎の段階で適切にケアすることが大切です。
1-2.歯周病の『歯肉炎』と『歯周炎』の違い
続いて、「歯肉炎」と「歯周炎」の違いについて見ていきましょう。
歯肉炎と歯周炎の主な違いは、その症状の進行度です。
いずれも大きなくくりでは「歯周病」に分類されますが、症状が進むことで歯肉炎は歯周炎と呼ばれるようになります。
歯肉炎から歯周炎への進行は以下の図のとおりです。
歯肉炎の主な原因は、磨き残した「歯垢(プラーク)」や歯石です。
歯垢の中の細菌の毒素や酵素が歯肉を刺激すると、歯ぐきが腫れたり、出血したりします。この段階を「歯肉炎」といい、歯肉炎の段階ではほぼ自覚症状がありません。
歯肉炎がさらに進行すると、歯と歯ぐきのすき間にある「歯周ポケット」がどんどん深くなり、炎症が広がっていきます。
この段階を「歯周炎」といい、症状の度合いによって「軽度歯周炎」「中等度歯周炎」「重度歯周炎」の3段階に分けられます。
<軽度歯周炎>
軽度の段階では、歯周ポケットが深くなり歯が長くなったように見える、出血、腫れ、口臭、冷たいものがしみる、といった自覚症状が出てきます。
<中程度歯周炎>
中等度ではさらに歯ぐきの炎症が広がり、歯を支える歯槽骨が溶け、歯がぐらつくようになります。
<重度歯周炎>
重度の歯周炎は、別名「歯槽膿漏」とも呼ばれます。
この段階は、膿が出てきたり歯根が露出したりと、かなり深刻な状態です。
歯槽骨が破壊されてしまうため、場合によっては歯を失う可能性もあります。
歯科医院では、歯周ポケットの深さの測定・出血の有無・レントゲンによる歯槽骨の破壊の程度を見て、歯周病の進行度合いを診断します。
素人には、歯周病の状態を正しく判断することは難しいため、歯や歯ぐきの状態に不安がある人は、まずは歯科医院で相談することをおすすめします。
2.歯肉炎の原因
続いては、歯肉炎の原因について解説していきます。
2-1.歯垢(プラーク)の蓄積による歯肉炎
歯肉炎の主な原因は、歯垢(プラーク)の蓄積によるものです。
口の中には約400〜700種類もの細菌が住み着いており、歯の表面に付着した細菌が増殖すると白くネバネバしたかたまりになります。
このかたまりが歯垢(プラーク)で、“プラーク1mgのなかには、およそ300種類1億個もの細菌が存在しています。
歯と歯肉の境目の清掃が行き届いていない状態が続くと、歯垢の中にいる細菌の毒素や酵素が歯肉を刺激し、歯ぐきの腫れや、出血を引き起こします。
歯垢は食後8時間程度で付着すると言われているので、食後の歯磨きを十分に行うことで歯垢の蓄積を防ぐことが可能です。
2-2.ドライマウスによる歯肉炎
唾液の分泌量が減少する「ドライマウス」も、歯肉炎の原因のひとつです。
唾液は、口腔内の自浄作用や殺菌効果といった重要な役割を持っています。
しかし、唾液が何らかの原因で十分に分泌されなくなると、口の中で細菌が増殖し、結果として歯肉炎が発生しやすくなります。
ドライマウスはストレスや過度の飲酒、加齢などにより起こります。
歯肉炎予防のためにも、ストレスのない生活習慣を心がけることが大切です。
2-3.ホルモンの変化による歯肉炎
ホルモンの変化も歯肉炎の原因になる可能性があります。
とくに女性の場合、妊娠によって女性ホルモンのバランスが変化すると、歯肉炎の元となる菌の一種である「プレボテラ・インターメディア」が増殖しやすくなります。
そのため、妊娠中の女性は気をつけていても歯肉炎になってしまう人が多いのです。
ちなみに、ホルモンの変化により歯肉炎が起こるのは女性だけではありません。
思春期の大幅なホルモンの変化は、性別に関係なく歯肉の腫れを引き起こします。
ホルモンの影響を完全になくすことはできませんが、より丁寧な口内ケアを行うことである程度予防することは可能です。
2-4.薬剤の副作用による歯肉炎
一部の薬は、歯ぐき組織の過剰増殖を引き起こす可能性があります。
それにより、歯垢が取れにくくなり、歯肉炎が発生しやすい口内環境になる場合があるので注意が必要です。
薬剤名 | 病名 |
フェニトイン アレビアチン ジフェニルヒダントイン | てんかんの治療薬 |
ニフェジピン(アダラート) ベラパミル(ワソラン) ジルチアゼム(ヘルベッサー) ニカルジピン(ペルジピン) | 高血圧症や狭心症の治療薬 シクロスポリンA 臓器移植や自己免疫の病気の治療薬 |
シクロスポリンA | 臓器移植や自己免疫の病気の治療薬 |
万が一、薬の副作用が考えられる場合は、歯科医師の指導の元で適切に処置する必要があります。
場合によっては、薬を処方した医師と相談し、使用している治療薬自体を見直すことも考えたほうが良いでしょう。
2-5.ビタミン欠乏による歯肉炎
まれではありますが、ビタミンの欠乏が歯肉炎を引き起こすことがあります。
ビタミンCが欠乏すると、歯ぐきの炎症や出血が起こりやすくなります。
また、ビタミンBの一種であるナイアシンが欠乏すると、歯ぐきや舌、口内の粘膜が炎症を起こし歯肉炎が生じることも少なくありません。
こうしたビタミン欠乏による歯肉炎を予防するためには、普段から野菜や果物を意識的に摂取するなど、バランスの良い食生活を心がけることが大切です。
3.歯肉炎になってしまった時の対処法
続いては、歯肉炎になってしまった時の適切な対処法を紹介します。
ほとんどの歯肉炎は、歯垢が十分に落としきれていないことが原因です。
ゆえに、軽度の歯肉炎は、歯垢をしっかり除去できれば、自宅でのセルフケアで対策することが可能です。
ただし、自身で歯肉炎か歯周炎かを判断することは簡単ではありません。
歯肉炎なのか歯周炎なのかわからなくて不安だという人は、先に歯科医院を受診して検査を受けることをおすすめします。
3-1.歯磨きで歯垢を落とす
セルフケアにおいて、もっとも重要なのは歯磨きです。
正しい歯磨きのやり方を覚えて、歯肉炎の原因である食べかすや歯垢をしっかり除去する習慣をつけましょう。
ここからは、【歯垢がつきやすい部分】を紹介した上で、【正しい歯磨きのやり方】について解説していきます。
【歯垢がつきやすい部分】
歯と歯の間や歯ぐきの境目、奥歯の溝などは、歯垢が特に付着しやすいため、意識的にしっかり磨く必要があります。
歯垢がつきやすいところをイメージしながら、歯磨きをしましょう。
【正しい歯磨きのやり方】
①.歯と歯ぐきの間にブラシを当て小刻みにブラシを動かす
②.前歯の裏側は、ブラシを縦に当てて歯垢を掻き出すように磨く
③.奥歯の裏側は、45度の角度でブラシを当てて小刻みに磨く
④.噛み合わせ部分は、歯ブラシを小刻みに動かして入念に磨く
⑤.歯と歯の間は、ブラシの毛先が歯の間にとどまるよう、小刻みに動かす
歯磨きは、マッサージをするくらいの感覚で優しく磨くのがポイントです。歯と歯ぐきの間、歯の裏側や重なった部分も磨き残さないよう丁寧にブラッシングしましょう。
また、歯肉炎対策にはアイテム選びも重要です。
有効成分の入った歯磨き粉や液体歯磨きを使うことで、より効果の高い歯周ケアを行うことが可能です。
【歯肉炎の改善に効果が期待できる薬用成分】
成分 | 作用 |
塩酸ピリドキシン | 歯ぐきの炎症・腫れを抑える |
β-グリチルレチン酸 | 歯ぐきのはれを抑え、歯周病を予防する |
イソプロピルメチルフェノール(IPMP) | 歯周病菌や虫歯菌を殺菌し歯肉炎を予防する |
ε-アミノカプロン酸 | 歯ぐきからの出血を抑える |
ゼオライト | 歯石の沈着を防ぐ |
3-2.フロスで歯垢を落とす
口内を清潔に保つには歯磨きが重要ですが、残念ながら歯磨きだけでは歯と歯の間の歯垢を落としきることはできません。
より確実に歯肉炎予防・改善を目指すなら、フロスを使って歯と歯の間をケアしましょう。
【正しいフロスの使い方】
- フロスを40cm程度の長さにカットし、左右の中指に巻きつける。このときフロスの長さは10cm~15cm程度にしておく
- フロスを伸ばした状態で、歯と歯の間に差し込む
- 歯の表面に沿わせながら、フロスを前後に動かして歯垢を掻き出す
- 汚れたら、フロスを綺麗な部分に替えてケアする
フロスならブラシの入ることができない、細かい部分の歯垢を掻き出すことが可能です。
ただし、力を入れすぎるとかえって歯ぐきを傷つけてしまうので、優しく丁寧にケアしていくことを心がけましょう。
3-3.症状によっては歯科医院を受診する
通常、丁寧なケアを心がければ10日程度で歯肉炎の症状の改善を実感できるはずです。
しかし、いくらケアしても改善が見られない、あるいは歯周炎のような症状があるという場合は歯科医院を受診することをおすすめします。
次の症状に該当する場合は、早めに歯科医院を受診した方が良いでしょう。
- 正しいセルフケアを続けても歯ぐきから出血する
- 歯肉から膿が出る
- 歯がぐらぐらする
- 硬いものを噛むと痛い
- 歯の根っこが露出して歯が長く見える
- 口臭がきつくなった
中でも、膿や歯のぐらつき、歯の根っこの露出といった症状があれば、歯周炎まで進行している可能性が高いです。
歯周炎になってしまった場合は、自宅でのケアだけで改善することは難しくなります。
歯を失ってしまうまえに、専門医の元で正しい対処と適切な治療を行うことが大切です。
3-4.定期的に歯医者でクリーニングを受ける
歯肉炎の予防・改善には、自宅でのセルフケアが重要です。
しかし、セルフケアのみで歯垢や歯石を完全に除去することはとても難しいのです。
下記の図は、歯周治療と歯の喪失関係についてのデータです。
歯周治療を全く行わなかった場合は、5年間の間に平均で「1.8本」の歯を失っています。
一方、歯周治療を行ったけれどメインテナンスを行わなかった場合は「1.1本」、歯周治療を行い、治療後も歯科医によるメインテナンス治療を行った場合は「0.5本」という結果が報告されています。
このように、歯の喪失を防ぐためには専門医によるメインテナンスが非常に重要なのです。また、せっかく歯周病治療をしても、その後のケアが不完全だと再発する可能性は十分にあります。
歯や歯ぐきの健康維持のためにも、定期的に歯科医院でのクリーニング及び、検査を受けるようにしましょう。
4.歯肉炎にまつわるよくある質問
最後に、歯肉炎にまつわるよくある質問についてお答えしていきます。
4-1.歯肉炎はどのくらいで治りますか?
付着した歯垢や汚れが原因で歯肉炎の症状が現れている場合、正しいケアを1週間〜10日程度続ければ、歯ぐきの腫れや炎症は軽減するでしょう。
4-2.歯肉炎は自宅で治すことはできますか?
多くの歯肉炎は磨き残しが原因なので、正しくケアすることさえできれば自宅で治すことも十分可能です。
正しい歯磨きのやり方を覚えて、丁寧に歯垢を取ることを心がけましょう。
殺菌効果や歯周組織修復効果のある成分が配合された歯磨き粉を使うのもおすすめです。
ただし、歯周炎にまで進行している場合は、いくら自宅でケアをしても症状を改善することはできません。
歯周病の症状が進行している人や、10日程度自宅でケアをしても症状が改善しない場合は、歯科医院で相談することをおすすめします。
4-3.ストレスが原因で歯肉炎になることはありますか?
ストレスは万病の元であり、歯肉炎がストレスによって引き起こされるケースもあります。ストレスや疲労の蓄積は思っている以上に体調に影響を及ぼすものです。
ストレスのせいで免疫力が低下すると、唾液の分泌量が減り「ドライマウス」になってしまいます。
ドライマウス(口内の乾燥)になると、唾液による殺菌効果や自浄作用が得られなくなり、口内の細菌が増殖し、歯肉炎が引き起こされやすい環境となってしまいます。
歯肉炎はもちろん、さまざまな病気を引き起こさないためにも、ストレスを溜めない生活を心がけることが大切です。
まとめ
歯ぐきから出血する、あるいは赤みや腫れが気になるといった症状があるのなら、歯肉炎かもしれません。
もし心当たりがあるのなら、早めに適切なケアを行うことが大切です。
歯周病の中でも軽度の症状である歯肉炎であれば、セルフケアで十分改善することも可能です。
ただし、歯のぐらつきや、歯ぐきの痩せ、膿などの症状がある場合は、歯周炎にまで進行している可能性が高いです。
ひとつでも当てはまる場合は、歯科医院で相談することをおすすめします。
日頃から正しい口内ケアを心がけ、健康な歯と歯ぐきを守りましょう。