胃もたれや胸焼け、胃痛などの胃の不調は、誰にでも起こり得る症状です。
病院に行くほどでもないけれど、『正しい対処の仕方が分からない』という人が多いのではないでしょうか。
そこで今回は、消化器内科の北村医師に、お腹に優しい食べ物や、胃腸の調子が悪い時の正しい対処法について教えてもらいました。
<お話を伺った医師>
お腹に優しい食べ物とは
Q『お腹に優しい食べ物』とは具体的にどのようなものなのでしょうか?
お腹に優しい食べ物とは、消化しやすく、胃への負担が少ない食べ物のことを指します。
胃の調子が悪い時は、胃に負担をかけないことが大切です。
食物繊維が少ないもの
食物繊維は胃腸を刺激する働きがあります。
食物繊維は便秘解消には有効ですが、お腹の調子が悪い時や下痢が激しい場合には避けるべきです。
とくに不溶性食物繊維は胃腸の負担となりやすいため、野菜を摂る場合には、水溶性食物繊維の多い人参やほうれん草、玉ねぎ、かぼちゃ等のほうが望ましいです。
油・脂質が少ないもの
油や脂質が多いものは、消化・吸収に時間がかかるため、胃に負担がかかります。
肉や魚を食べたい場合には、脂身の多いものは避けたほうがよいです。
お腹の調子が悪いときには、脂身の少ない、鶏のささみや、白身魚などを摂るようにしてください。
薄味のもの
味の濃いもの、酸っぱいもの、辛いものなどは、胃を刺激します。
なるべく薄味のものを選ぶとよいでしょう。
あたたかいもの
冷たいものは、胃腸の刺激となったり、胃腸の血流を低下させたりして胃腸に負担をかけます。
胃腸の調子が悪いときには、食事、飲料ともに冷たいものは避け、温かいものを摂るようにしましょう。
お腹の調子が悪い時に食べない方が良い食べ物
Q.お腹の調子が悪い時に食べない方が良い食べ物はなんですか?
お腹の調子が悪い時は、胃を刺激したり、消化を促進したりする働きのある食品は避けるべきです。
具体的には以下のような食品が挙げられます。
油物や脂肪分が多い食品
天ぷらやステーキなど油物や脂肪が多い食品は、消化や吸収に時間がかかり、胃腸の負担となるため避けるべきです。
胃腸の状態が悪いときには、揚げ物や炒め物などを極力避け、茹でたり、蒸したりして調理されたものを選ぶとよいでしょう。
繊維質の野菜
胃に吸収されにくい繊維質は胃腸の負担となります。
セロリやゴボウ、タケノコなど繊維質の野菜は不溶性食物繊維が多く、胃腸を刺激するため、避けるべきでしょう。
また、キノコ類も不溶性食物繊維が多く、胃腸の負担になるので、胃の調子が悪いときには、少量にとどめるほうがよいでしょう。
香辛料
とうがらしやわさび、からし、こしょうなどの香辛料は、胃腸の動きを活性化する働きがあります。
通常時であれば、消化を助ける効果が期待できると言えますが、胃腸の調子が悪い時には、胃腸に刺激を与えることとなり、負担になるので避けるべきと考えられます。
嗜好品・飲み物
アルコールを摂取すると胃や食道の粘膜を刺激したり、消化管に直接障害を起こす他に腸管からの水分や電解質(ナトリウム・カリウム)の吸収を低下させるので胃腸の悪いときには避けるべきです。
カフェインや炭酸飲料、柑橘系の飲料は胃腸を刺激し、胃腸に負担をかけるので避けるべきと言えます。カフェインは、コーヒーだけでなく紅茶や緑茶などにも含まれていますので、これらも控えましょう。
乳製品には乳糖が含まれており、下痢の場合には、大腸に負担となり、却って悪化させる恐れがあります。
どうしても乳製品を飲みたい場合には、人肌程度に温めて、少量ずつ飲むようにしましょう。それでも摂りすぎには注意してください。
お腹の調子が悪い時におすすめの食事
Q.お腹の調子が悪い時はどのようなものを食べれば良いですか?
お腹の調子が悪いときは、症状に合わせて適切な食事をとることが大切です。
重症の場合(下痢がひどい)
食べると下痢をして、数分毎にトイレに行くような重症の場合、病院では2〜3日禁飲食(飲水も食事も止める)で胃腸の安静を図り、点滴で水分を補給します。
自宅では点滴ができないため、1~2食抜いて水分を多めに摂るようにしましょう。
症状がひどい場合は、すぐに病院を受診してください。
回復過程の場合
回復食の場合は、重湯、3分粥、5分粥、7分粥、全粥と徐々に水分量を減らしていき、胃をならしていきます。
回復過程では、水分が多く、柔らかめのお粥やうどんなど、胃腸に負担をかけない食事を選びましょう。
軽度の場合(下痢はないけれど調子が悪い)
下痢ではないけれど、お腹の調子が悪いという場合は、お粥や野菜スープ、湯豆腐など、消化によく、身体を冷やさないものがおすすめです。
お腹の調子が悪い時の食事例
Q.具体的な食事(献立)をおしえてください
お腹の調子が悪い時は、胃腸に負担をかけない食事が大切です。おすすめの献立を紹介します。
主食
水分がやや多めのお粥がおすすめです。胃にも優しく、水分補給にもなります。
柔らかめに茹でたうどんもよいでしょう。
おかず
タンパク源を効率的に摂取できる半熟卵や湯豆腐がおすすめです。
卵は、タンパク源としてよい食品ですが、調子が悪いときには、生卵や固ゆでのゆで卵は胃腸の負担となるので避けましょう。
汁物
野菜の煮汁にはナトリウムやカリウムなどの電解質が多く含まれています。
お腹を下している時には電解質が失われやすいので、温かい野菜スープで補いましょう。
具材には、水溶性食物繊維の多い人参やほうれん草、玉ねぎ、かぼちゃなどがおすすめです。
デザート
フルーツには、カリウムなど電解質が多く含まれており、糖分も多いため、お腹の調子が悪い時におすすめです。
ただし、柑橘系など酸味のある果物は胃に刺激を与えるので避けましょう。りんごやバナナ、缶詰の果物がおすすめです。
ただし、冷たいフルーツを摂りすぎると、胃腸の血流低下にもつながるので、摂りすぎには注意してください。
リンゴは不溶性食物繊維が豊富のため、塊の状態では胃腸に負担がかかる場合があります。リンゴは、細かく刻んだり、すったりするとよいでしょう。
バナナは温めると柔らかくなる上、甘味が増すのでおすすめです。
Q.自炊ができない人はコンビニ食品でも代用できますか?
最近は、コンビニでさまざまな食品が手に入るようになったので、自炊ができない人はコンビニ食品を活用すると良いと思います。
コンビニで手に入るおすすめの食品は、お粥や雑炊、豆腐、卵豆腐、温泉卵、鍋焼きうどんなどです。
冷たいままだと胃腸に負担がかかるので、電子レンジで温めたり、豆腐は湯豆腐にするのがおすすめです。
鍋焼きうどんは消化しやすいよう柔らかめに茹でてください。具材に胃の負担になる食材(油揚げなど)が含まれる場合は避けたほうがよいでしょう。
お腹の調子が悪い時の対処方法
Qお腹の調子が悪い時はどのようにしたらよいですか?
急性胃腸炎など重症の場合は、飲食を禁止し、点滴で水分を補給し安静にしていただきます。
そこまでではない場合には、食事のみ禁止し、飲水のみ可能と指示をします。
つまり、飲食をすると、消化のために胃や腸管が活動をするため負担となります。
ご自宅では、点滴は難しいので胃腸の調子が悪い場合には、食事を1〜2回せずに水分だけ摂るようにするとよいでしょう。
食事をとらないと体力が落ちてしまうのではと心配される方もいらっしゃいますが、皮下脂肪や内臓に蓄えられたエネルギー源があるので、数日食事を止めても大きな体力低下には至りません。
もちろん、症状が軽く食欲がある場合は、先に紹介したような『お腹に優しい食べ物』を食べていただいて構いません。
いずれにせよ、症状が長引く場合は必ず医師に相談してください。
Q.お腹の調子が悪い時の正しい水分の摂り方について教えてください
下痢が激しい場合は、大腸で水分が吸収できず、普段よりも多くの水分が必要です。しかし、一度に大量に飲むと胃腸に負担がかかるため、少量ずつこまめに摂取しましょう。
冷たい飲み物は、胃腸の血流低下をきたし、胃腸に負担がかかります。調子の悪いときには、冷たいものは避け、温かいものを飲むようにしましょう。
下痢が続くと、体内の電解質(ナトリウム・カリウム)が失われます。 水道水は電解質をほとんど含まないため、スポーツドリンクなど電解質を含む飲料を摂ることをおすすめします。
水道水しかない場合は、少量の塩を溶かして飲むのも良いでしょう。生理食塩水 (0.9%程度の食塩濃度) を参考にすると分かりやすいです。
ミネラルウォーターを選ぶ場合は、軟水を選びましょう。硬水は便に水分を多く含ませる作用があり、便秘解消には効果的ですが、多く飲むと胃腸に負担がかかり下痢になることもあります。
Q.お腹の調子が悪い時はどのような薬を飲めば良いですか?
症状によって適切な薬は異なります。 代表的な症状とおすすめの薬(成分)を紹介します。
<下痢の場合>
便秘や下痢が続く場合は、腸内細菌のバランスが乱れている可能性があります。乳酸菌などの善玉菌を摂取することで、腸内環境を整え、便通異常の改善に役立ちます。
病院を受診された場合は、症状に合った整腸剤を処方します。
<胃もたれの場合>
胃もたれの症状がある場合、胃腸の働きが低下していると考えられます。
蠕動運動(食物を胃の奥に送る運動)の低下もしくは、消化酵素の分泌低下が主な原因であることが多いです。
病院を受診された場合には、胃の蠕動運動を改善する薬や消化酵素剤を処方します。
<食欲がない場合>
食欲がない場合、ビタミンB群やミネラルを補給することが大切です。
ビタミンB群は糖質、タンパク質、脂質などの代謝に関与し、エネルギー産生や疲労回復に欠かせません。
ナトリウムやカリウムなどのミネラルは、下痢の症状がある場合失われやすいので補給する必要があります。
また、鉄や亜鉛などの微量元素が不足すると、貧血や味覚障害、甲状腺機能異常などさまざまな症状を引き起こす可能性があるので注意が必要です。
まとめ
今回は、目黒の大鳥神社前クリニックの北村医師に、胃の調子が悪い時の食事や対処方法について解説していただきました。
胃腸の不調は、誰でも起こる身近な症状ですが、食事や過ごし方次第で回復のスピードは変わってきます。
お腹の調子が悪くなりやすい人は、日頃からお腹にやさしい食べ物を摂ることを心がけ、胃腸の負担を減らすようにしましょう。