ストレスで下痢・腹痛が続く「過敏性腸症候群」とは?症状や予防・改善対策

「最近下痢が続いている」「おならが臭くなった」という方はストレスを抱えていませんか?

その場合は過敏性腸症候群(IBS, irritable bowel syndrome)かもしれません。

一時的なものならまだしも、慢性的な腸の不調は日常生活にも支障をきたします。だからこそ原因に向き合い、改善方法を探ることが大切です。

この記事では、過敏性腸症候群の原因や予防・改善対策についてご紹介します

 

ストレスとお腹の不調を抱える人はどんな世代?

仕事中にストレスを感じるとお腹の調子が悪くなる人がいますが、どのような世代に多いのでしょうか。

まずは現在、仕事をしている人を対象に行った、仕事中のストレスとお腹の不調で困っている人がどのくらいいるのかがわかる調査を見てみましょう。

 

「仕事中のストレスとお腹の不調で困っている人」の発現率

※『とても困っている』『やや困っている』の合計は小数点第一位を四捨五入

 

◆わかもと製薬アンケートより(2021年6月実施)

■調査対象

【性別】男性(1882人)・女性(1839人)

【年齢】30~69歳(実績30~67歳)

【地域】全国

【条件】現在、仕事をしている方

 

グラフを見ると、「とても困っている」「やや困っている」と答えた人は全体の26%です。

これを平均とすると、男女ともに30代〜40代が平均を超えていることがわかります

30代〜40代は、いわゆる中間管理職で部下と上司の板挟みになりやすい世代といえるため、ストレスも溜まりやすいはずです。

困っている人の割合が最も多いのは女性の35歳〜39歳で42%です。

子育てと仕事の両立に奮闘している人も多い世代なので、そのストレスから不調が出ている可能性もあるでしょう。

年代別で比較しても、その多くで男性よりも女性の方が困っている人の割合が大きくなっています

 

以降で説明する過敏性腸症候群は、男性よりも女性の罹患者が多いといわれる病気です。

この調査で「とても困っている」「やや困っている」と答えた人が過敏性腸症候群とは限りませんが、ストレスとお腹の調子になんらかの関係があることは確かです。

それでは、過敏性腸症候群について詳しく見ていきましょう。

 

原因不明の腹痛と下痢が続くなら「過敏性腸症候群(IBS)」かも

下腹部の痛みお腹が張っている下痢便秘の症状がある方は、過敏性腸症候群の可能性があります。

過敏性腸症候群とは、内視鏡検査や血液検査などでは問題が見つからないにもかかわらず、慢性的に腹痛や下痢・便秘が認められる病気のことです。

日本における有病率(人口中、その病気を持っている割合)は10~20%と報告されています。

引用元:一般社団法人日本大腸肛門病学会

 

過敏性腸症候群は、腸の運動に異常が出たり、感度が過敏になったりすることで引き起こされると考えられています。

過敏性腸症候群の大半の人は健康そうに見えるため、過敏性腸症候群かどうかは

  • 過敏性腸症候群の診断基準に基づいた症状があるか
  • 大腸がんや炎症性腸疾患など他の病気が疑われるような症状はないか

などの総合的な評価によって診断されます。

 

ストレスが下痢を引き起こすメカニズム

過敏性腸症候群を発症すると、消化管がストレスなどの刺激に対して敏感になり、正常であれば気にならないようなちょっとしたきっかけでも、腸が不調をきたす場合があります

下痢は過敏性腸症候群の代表的な症状のひとつですが、それを引き起こす主なきっかけになると言われているのがストレスです。

なお、過敏性腸症候群の中でも、少しの不安や緊張を感じただけで、慢性的に激しい下痢症状に見舞われる場合は「慢性下痢型」別名「神経性下痢」に分けられます。

 

お腹の調子が悪くなるような、ちょっとした緊張や不安を感じるのは、どのような時ですか?具体的に教えてください。

 

仕事のプレッシャーが強い時です。大事な会議の前など(30代前半・男性)

 

あまり会った事がない人やはじめて会う人が居るとき(30代前半・女性)

 

子供のイベント事や、久しぶりに誰かに会う時、飛行機など時間が決まっている乗り物、遅刻できない状況の時(30代後半・女性)

 

その日に嫌な事や嫌な予定がある(40代前半・男性)

 

どこかへ出かける時に、人目が気になり緊張してしまいます。バス旅行などでは、トイレに行かなきゃ・・・いけるのかな・・・とか思ってしまう(40代後半・男性)

 

行ったことのない場所に行ったり、嫌な人と会わなければならない時です(40代後半・女性)

 

※わかもと製薬「ちょっとした緊張や不安で、お腹の調子が悪くなる方へのインタビュー」より抜粋(2021年3月実施)

 

このようなストレスを受けると、脳は異常を知らせる信号を腸に送ります。

すると、腸のぜん動運動が活発になり、便の水分が腸で十分に吸収されることなく、下痢となって排出されてしまう運動亢進性の下痢を引き起こすのです

一方、ストレスにより自律神経系のバランスが崩れることで、腸に張り巡らされた神経が過敏になり、運動亢進性下痢が起こる場合もあります。

自律神経である交感神経と副交感神経のバランスが崩れることで起こるさまざまな症状を自律神経失調症といいますが、これが引き金となって過敏性腸症候群を発症している可能性もあるのです

 

いずれにしても、ストレスが腸の活動を乱すことによって過敏性腸症候群の症状を左右しているのです。

過敏性腸症候群におけるストレス性の下痢は、細菌による食あたりなどで起こる下痢とはメカニズムが異なります

ただ、病原微生物などの細菌が増殖して発症する感染性腸炎から回復した後に、過敏性腸症候群にかかりやすい傾向にあるとも言われています。

 

「過敏性腸症候群」で便秘になるケースもある

過敏性腸症候群には、下痢の症状が顕著に出る「下痢型」に対して「便秘型」といった、主に便秘を発症するケースもあります。

便座に座っても腹痛があるだけで排便できないウサギのフンのように硬くて小さい便しか出ないといった症状があり、もしもストレスによって悪化するようであれば、過敏性腸症候群の影響かもしれません。

また、下痢と便秘を繰り返す「混合型」もありますが、一般的にはこのタイプがもっとも多いと言われています。

 

もうひとつ「ガス型」というタイプもあり、腹部の膨満感や臭いおならが出るのが特徴です

頻繁におならが出たり、ゴロゴロとお腹が鳴ったりもします。

 

腹痛・下痢以外の症状

過敏性腸症候群では、腹痛や下痢などの腸に関する症状以外に、下記のような身体症状も現れる場合があります。

  • 頭痛
  • めまい
  • 肩こり
  • 吐き気
  • 食欲不振
  • 不眠

など

実際にこのような症状が出る人がいます。

 

お腹の調子で、体調的にどのようなことが辛いですか?出来るだけ詳しく教えてください。

 

大腸がキュルキュルして、気分が悪くなり吐き気をもよおしトイレから出られなくなる。(40代前半・男性)

 

まず下痢をします。そのせいで疲れて、活動がおろそかになってしまう。また風邪をひきやすくなって、体もこわばるので、肩こりも起きてしまいます。栄養も偏ってきてニキビができてしまいます。(30代後半・女性)

 

※わかもと製薬「ちょっとした緊張や不安で、お腹の調子が悪くなる方へのインタビュー」より抜粋(2021年3月実施)

さまざまな不調が併発する場合があることを覚えておきましょう。

 

「過敏性腸症候群」セルフチェック

腹痛や下痢、便秘が続いているという方は過敏性腸症候群の可能性があります。

まず、次のセルフチェックを行ってみましょう。

過敏性腸症候群に罹患すると、電車やバスに乗っているときや、テストや会議の前などストレスがかかる場面で、腹痛や下痢を起こしやすくなります

そのため、日常生活に支障が出ることも大いにあります。

不調の原因が過敏性腸症候群によるものだとわかるだけでも、ストレスは減るものです。

日々不安を抱えながら生活している方は、医師に相談してみましょう。

 

下痢を伴う過敏性腸症候群の予防・改善対策

急な下痢が頻発する方の中には、外出をなるべく避けるようにしている方もいるでしょう。

ただ、思い通りに生活できないストレスが、過敏性腸症候群をさらに悪化させる可能性もあります。

ここでは、過敏性腸症候群による下痢の予防・改善対策を紹介します。

 

ストレスの原因から離れる

休む間もなくたくさんの仕事を任されたり、一緒にいて不快な気分になる人に度々ランチに誘われたり、そんなストレスがきっかけとなり、下痢の症状に悩んでいる人もいるでしょう。

その場合は、ストレスの原因から離れることが症状の改善につながるかもしれません

仕事が手一杯なら、自分一人でなんとかしようとせず周りの人を頼ったり、会いたくない人からの誘いなら「忙しいから」と断ったりしてもいいのです。

勇気を出して行動することでストレスから解放され、下痢症状から抜け出せる可能性があります。

 

適度な運動などでストレスを発散する

ストレスの原因から離れたくても、簡単にいかないこともあるでしょう。

そんなときは、ストレスを溜めないように発散していくことが大切です。

おすすめは無理のない適度な運動を生活習慣に取り入れることです。

 

人は運動をすると、セロトニンと呼ばれる脳内物質が分泌され、幸福感が増すと言われています。

特にウォーキングやジョギング、サイクリング、ダンスなどの有酸素運動が適しているとされています。

ただ、頑張り過ぎて疲労が残ると、かえってストレスになるかもしれません。

スッキリしたと感じる程度の運動をコンスタントに継続するようにしましょう。

 

仕事中にストレスが溜まっているのを感じたら、軽いストレッチをするのもおすすめです。

デスクワークなら、凝り固まった姿勢を伸ばすだけでも、心地よさを感じられます。

休憩時間に好きな音楽を聴いたり、気の合う人とおしゃべりしたりするだけでもストレス解消になるでしょう。

 

自分に合ったストレス解消法を見つけると、過敏性腸症候群の症状が軽減されるかもしれません。

 

脂分・糖分は避け、消化のよい食べ物を摂る

精神的ストレスがたまると、脂っこいものや甘いものをつい食べ過ぎてしまいませんか。

脂分や糖分の多い食べ物は腸に負担をかけるので、食べ過ぎると下痢を引き起こす可能性があります

香辛料など刺激の強いものやアルコールも負担がかかるので、下痢が続いているときは特に避けましょう。

また、通常ではお通じに良いとされる食物繊維の多い食べ物も、下痢のときは悪化させる原因になります

 

下痢のときは、次のような消化の良い食べ物をおすすめします。

 

生活リズムを安定させる

生活リズムが乱れると、自律神経のバランスが崩れて腸の働きにも影響を与えます。

起床、睡眠、食事の時間を一定に保ち、生活リズムを安定させると、自律神経のバランスが整い、腸の調子の改善にもつながると考えられます

また、朝食後の決まった時間に余裕を持ってトイレに行くようにすると、通勤中にお腹が痛くなるかもしれないといった不安も軽減できます。

便秘型の過敏性腸症候群の方は、便意が定期的に来るようになることも期待できるでしょう。

仕事上、不規則な生活を余儀なくされている方も、できる限り生活サイクルを一定にすることで症状が緩和される可能性があります

腸内環境を整える

精神的ストレスがかかった際に、急な腹痛や下痢、便秘に見舞われた経験がある人も多いのではないでしょうか?

脳や腸は自律神経ホルモンによって互いに情報を交換しています。

そのため、精神的なストレスを受けると、その情報が脳から腸に伝えられ、結果的に腹痛や下痢、便秘などを引き起こすことになります。

逆に腸内環境が悪化するとその情報も脳に伝わり、自律神経が乱れて精神的な不調が起こるのです。

 

腸内環境が乱れている人は食事や生活習慣、サプリメントや薬で改善することをおすすめします。

乳酸菌や食物繊維を多く含む食べ物を摂取し、規則正しい生活を心がけましょう。

また、サプリや薬を服用する場合は、腸内環境を育む3種の菌【乳酸菌・麹菌・酵母菌】が配合されているものが良いでしょう。

乳酸菌は便量の増量、ぜん動運動の促進が期待でき、麹菌は善玉菌のエサとなるオリゴ糖を生み出すので、善玉菌を増やすことにも貢献します。

酵母菌は善玉菌を増殖させたり、疲労回復に貢献したりと、身体の内側から活力を高めることにも役立ちますので試してみてください。

 

本当に過敏性腸症候群?こんな症状があるなら病院へ

過敏性腸症候群では起こらないはずの症状を併発している場合、症状によっては病院の受診が必要です。

 

血便、発熱、嘔吐を伴う下痢なら早急に病院へ

便秘や下痢、腹部の違和感といった過敏性腸症候群の基本的な症状以外に、次のような症状がある場合は早急に病院へ行きましょう。

  • 黒色便もしくは血便がある
  • 夜間にお腹を下す
  • 発熱している
  • 体重が減った
  • 嘔吐がある
  • 50歳を超えて過敏性腸症候群の症状が出た
  • 大腸がん、炎症性腸疾患の家族歴がある

こうした症状がある場合は、腸のX線検査、腹部超音波検査、大腸内視鏡検査などの検査結果も踏まえて病名を特定します。

 

自己対策してもいつまでも下痢が改善しないなら病院へ

過敏性腸症候群と思われる症状があり、自己対策をしているものの一向に下痢が改善しないという場合も、医師の診断を仰ぐことをおすすめします。

いつものことだからと我慢せず、少しでも不安があるなら医師に相談しましょう

思わぬ原因が判明するかもしれません。

医師の的確な指導のもと症状を改善に向かわせましょう。

 

何科を受診する?

過敏性腸症候群が疑われる場合、病院の何科を受診すれば良いのでしょうか。

過敏性腸症候群は腸に関係する症状なので、胃腸科消化器科といった専門科で診てもらうのが一般的です。

ただ、過敏性腸症候群は何がきっかけで発症しているのか特定することが困難な疾患ですので、総合的な判断が必要となります。

例えば、不安症やうつ病が、過敏性腸症候群を引き起こしている可能性もあり、その場合は、精神科・心療内科の受診が必要になります

 

便検査、血液検査を受ける

過敏性腸症候群の診断のために、血液検査や便検査などの各種検査を行う場合があります。

潰瘍性大腸炎、がん、クローン病、リンパ球性大腸炎、急性腸炎といった疾患や、その他過敏性腸症候群のような腹痛・便通異常を起こす病気や感染症ではないかどうかを確認するのです

50歳以上だったり大腸に関する病気の罹患歴があったりする場合は、大腸内視鏡検査を実施することもあります。

ストレスで過敏性腸症候群が発症するケースも多いため、日々の不安やストレスについてもヒアリングされるでしょう。

 

過敏性腸症候群の診断基準

各種検査について結果が異常なしだった場合、過敏性腸症候群の診断基準に当てはまるかどうかで診断が決まります。

その診断基準に使われているのが「ローマⅣ基準」です。

<RomeⅣ診断基準>

下記の1ないし2項目以上を伴う繰り返す腹痛が、最近の3カ月において、平均少なくとも週に1回以上認める

(1)排便と関連する

(2)排便の頻度の変化と関係する

(3)便の形状の変化と関係する

引用元:一般社団法人日本大腸肛門病学会

 

基本的な治療方法

治療方法は出ている症状によって異なります。

ストレスが影響している場合は、できる限りその原因を遠ざけるようにしましょう。

適度な運動などでストレスを解消することも大切です。

 

■食生活の見直し

前述の通り、過敏性腸症候群の場合、脂分・糖分の多い食事を避け、消化の良い食べ物を摂ることが改善のために有効です

食生活の見直しは、過敏性腸症候群を改善するにあたって重要な治療方法でもあるので、一部ポイントをピックアップします。

 

  • 1日3食で毎食たくさんの量を食べるのではなく、1日5~6食に分けて少ない量の食事をする
  • チューインガムなどに配合されるソルビトール(人工甘味料)や、果物などに含まれるフルクトース(果糖)は摂り過ぎるとお腹がゆるくなりやすいので少量にとどめる
  • 便秘の症状が出ている場合は、食物繊維を多く含む食品を摂る
  • 腹部に張りがある、おならがよく出る場合は、キャベツや豆類など消化の悪い食べ物は控える

 

■薬による改善

症状に合わせた薬の服用で改善を目指す場合もあります。

 

【下痢の場合】

下痢止め薬の服用

  • ロペラミド塩酸塩
  • タンニン酸アルブミン
  • ベルベリン塩化物水和物

など

 

【便秘の場合】

下剤の服用

  • ポリエチレングリコールなどを含む非刺激性下剤
  • ビサコジルを含む刺激性下剤
  • ルビプロストン、リナクロチド(処方薬)

など

 

【腹痛がある場合】

抗コリン薬の服用

そのほか、抗うつ薬が症状に応じて処方される場合もあります

 

自律神経の乱れで下痢や便秘が起こっていると考えられる場合、心療内科などでは自律訓練法という治療が行われることがあります。

自己催眠によって意識的にリラックス状態を作り自律神経のバランスを整えるというものです。

医師の指導のもと行われるので、試してみたい人は病院で相談してみましょう。

 

まとめ

過敏性腸症候群を罹患すると、検査では異常がない状態で、下痢や便秘といった症状が出ます。

症状が出るのを抑えたり、悪化させたりしないためには、ストレスや不安、不規則な生活などを回避する必要があります

まずは思い当たるところがないか見直して、できる範囲で状態の改善を目指しましょう。

 

たとえば適度な運動をすると、気分転換になり、ストレスが解消されます。

ウォーキングやストレッチを習慣にするのも1つの方法です。

また、普段からお腹に優しい消化を意識した食事で、栄養面に気を付けながら、腸内環境も整えるような食生活を目指しましょう

対策をしても症状が続く場合は、医療機関で診断を受けましょう。