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編集部が気になるあの人に突撃インタビュー

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男子学生大多数の大学で始まった生理用品無料設置プロジェクト

今年の秋、東京都市大学の一角に、あるフェムテックが誕生します。学生による自主活動「学内女子トイレへの無料生理用品設置」プロジェクトです。そもそもの始まりは、「ひらめきプログラム」というゲームチェンジャー育成の選抜コース。アイデアを生み出す「ひらめきづくり」、他分野をつなぎ実装する「ことづくり」、多様な人々と共創する「ひとづくり」のなどを学びます。指導するのは環境学の専門家であり、企業のSDGsブランディングを手掛ける杉浦正吾先生。プロジェクトメンバーである学生のリアルな声と、私たちがSDGsに向けてすべきことを伺いました。

TODAY'sGUEST

杉浦正吾さん

杉浦正吾さん

専門分野は環境教育・ESD(持続可能な開発のための教育)・サステナビリティコミュニケーション。筑波大学大学院環境科学研究科在学時代に起業。現在、東京都市大学教授、武蔵野大学大学院客員教授を勤めながら、企業のSDGsブランディングや、ESGコンサルティングを行う。三井物産とともに開発した探究型ESD「サス学」では、文部科学大臣賞受賞。株式会社プラチナマイスター代表取締役。

お話を伺った東京都市大学「ひらめきラボ」の学生のみなさん

加藤 凜香さん(機械工学科:4年)
倉田 紗矢香さん(機械工学科:4年) 
今川 知洋さん(機械工学科:4年)
内山 虎太郎さん(機械工学科:4年)
米地 洸希さん(電気電子通信学科:3年)

渋谷で偶然出会った生理用品サービスのシステムに感動

杉浦先生の専門分野と、今回のプロジェクトの背景を教えてください。

杉浦:私は、教育や政策提言で環境問題を解決できると考え、「環境コミュニケーション」という分野で学位を取りました。人を動かす仕組みと科学技術が噛み合うと課題解決のエンジンが推進します。そのプロジェクトをつなぐのに必要なのは、政策や教育を含む大きな意味での“コミュニケーション”。その研究の延長上のひとつに、「ひらめきプログラム」があります。

加藤:私たちは、「ひらめきプログラム」の一期生です。そこから、学生が自主的に活動する「ひらめきラボ」が立ち上がりました。私が1年生の冬に、渋谷のショッピングビルのトイレで出会ったサービス が、今回のプロジェクトの始まりです。アプリをダウンロードし、スマホをかざすと無料で生理用ナプキンが出てくるサービスで、「これは面白い!ラボのプロジェクトにして、学内に導入したい」と提案をしました。

今回のプロジェクトリーダーである加藤さん

倉田:加藤さんから話を聞き、私もすぐ渋谷へ。学内には男子学生が多く、人目が気になって生理用品を買いに行けず、困っていたので解決できたらいいなと。

加藤:さっそく運営会社に問い合わせると、材料不足ですぐには置けないことがわかりました。どうしよう…と悩んでいたら、倉田さんが「機械を自分たちで作ろうよ」と。確かに「ひらめきプログラム」のメンバーは、機械工学科、機械システム科、電子通信工学科の所属で、機械を作るには持ってこいの集団。授業中に時間をもらい、倉田さんと「システムを作るのが得意な人、機械を作るのが得意な人、一緒にやりましょう!」と仲間を集いました。

倉田:でも、センシティブなテーマだから仲間が集まるかなあと不安だったんです。

加藤:興味を持ってくれたのが、この男子3人です(現在総勢10人が参加)。

加藤さんと共にプロジェクトを立ち上げた倉田さん

男子学生は戸惑いながらもエンジニア魂でチャレンジ!

今川:自分は、子どもの頃から模型やプラモデルを作るのが趣味だったので、よっしゃ、やってみよう!って感じだったかなあ。ただ(女性の生理については)正直なところ、距離を取りたい、接近したいテーマではなくて…。

内山:僕は、生理用品関連のものを作ると聞いて、少し身構えました。でも、授業ではものづくりの機会が少なく、とにかくプログラミングがしたい、チームプレイで作業できる貴重な機会だ!と手を挙げました。

米地:僕も自分でいろんなものを作っていたので、3Dプリンターを使うらしいし、いろんなスキルを身に付けられそうだと思って参加しました。

杉浦:私は、SDGsの目標3や5の課題*を解決するのに、みんなが集まって何かやるのは応援したいと思いました。メンターとして並走し、何か問われたら手伝うというスタンスですね。

役割分担はどのように?

今川:女子2人はプロジェクトの主導で、大学との交渉やトイレ内の設置場所、生理用品の使用量などの実地調査をやってもらいました。当たり前のことですが、われわれ男子は、女子トイレに入れません。なので、内山君と米地君にはソフトウエアを作ってもらい、僕は箱や土台づくりを担当しました。みんなそれぞれの専門の垣根を越えています。

エンジニアとして徹底的なこだわりで、プロジェクトに向き合った今川さん

杉浦:「ひらめきプログラム」自体が、分野横断、文理融合で垣根がありませんから。

加藤:そうしてプロジェクトが始まったんですが、予定通りに進まない(笑)。「計画を立てれば、その通りに行くでしょう〜!」と思ったら、3Dプリンターでうまく印刷できなかったり、もともとのサービスを運営している会社に類似品を作ることの許諾や権利関係の交渉を行なうのに時間を要したり、トイレの個室内でのネット環境を整えるなど、機械を作る以外のところに苦戦しました。

*健康、福祉、産業と技術革新、海の豊かさを守るなど経済・社会・環境にまたがる17の目標があるSDGs。目標3は「【すべての人の健康と福祉を】あらゆる年齢のすべての人々の健康的な生活を確実にし、福祉を推進する」、目標5は「【ジェンダー平等を実現しよう】ジェンダー平等を達成し、すべての女性・少女のエンパワーメントを行う」

プロジェクトを通じて、みんなの意識に変化が生まれる。

チームでプロジェクトに向かう中で、男性の意識の変化はありましたか?

米地: 僕は、ありました。女の子と一緒にいる時、突然機嫌が悪くなったり、お腹が痛そうにしていたり、生理の時は不調になるというのを、実は最近知ったんです。彼女が生理用品の自販機がないトイレで、「あるといいのになぁ」と言うのを聞いて、自分たちの活動は意味があるんだと実感しました。

一同:おおお〜!

米地さんは、プロジェクトを通じて、女性の悩みや不便さを理解するように

今川:自分は、中高男子校で、「女性というものは本当に存在するのか?」という世界にいたんです(笑)。だから今回、(生理用品は)ティッシュを買うみたいに買えないことがわかったり、(女性の不調は)基本的にはあまり触れてほしくないことを知りました。「つらい」と言われた時は、よっぽどのことだから配慮しようと考えるようになりましたね。

内山:僕が気づかされた課題は、機械から生理用品を出すときに「起動音が大きいと恥ずかしい」と言われて、「あーっ、確かに!」と。

杉浦:そんな指摘があったんですね。

倉田:私です(笑)。参加してくれている男性メンバーは、みんな作ることに好意的で、意見も率直に伝えられます。生理のことも、そこまで隠さなくていいんだと自然と思うようになりました。

これまで、SDGsやフェムテック、ジェンダーについては意識していましたか?

加藤:私は、純粋にこのサービスに感動し、「学内に置きたい!」という直感だけでしたね。プロジェクトが始まってから、大学側と話をするために学内の男女比を調べるうちに、結果的にSDGsについて考える機会になりました。

倉田:フェムテックという言葉は知っていました。自分の考えていることや気づきは、(SDGsの観点でも)良くなるきっかけになるんだな、と改めて感じているところです。

内山:工業高校時代の友人に、生理用品を出す機械を作っているんだよ、と嬉しくて話したら特に反応がなくて、「なんだよ、面白くないなー!」って(笑)。でも、それはイメージが湧かないから。僕も最初は未知の世界のことで、問題意識もないから、作ろうという発想もなかった。それが僕らの課題なのかな。

杉浦:それは、日本全体の課題かもしれませんね。

想像もつかないことを知り、考えさせられることが多かったと言う内山さん

ようやくプロジェクトもゴール間近です。来春は、就職する人も?

今川:僕は重工系の仕事に進みます。

杉浦:「重機」でジェンダー問題を解決、とかできそうですね。

今川:男性と女性では手の長さや大きさが違いますから、安全面はもちろん、操作する時に女性は一度に二つのボタンを押せないとか、いろんな課題があると思います。男性だから気づくこと、女性だからこそ気づくこと、その両方を生かすものづくりがしたいですね。

倉田:私は自動車関連の会社に入ります。女性エンジニアはまだ少ないので、フェムテックという目線で製品開発をしていきたいです。

内山:僕も自動車系の業界へ。今後、自動化の技術が進む中で、女性にどう寄り添っていくか考えなきゃいけないなって、改めて思いました。

大切なことは、SDGsを日本流に読み解き、伝えること。

最後に、杉浦先生が考える、ジェンダーの課題、またSDGsを達成するためにすべきことは何でしょう?

杉浦:SDGsの各目標を、「これは途上国の話。日本には関係ない」とは思わず、どれも、「日本流に置き換えるとどうなるだろう?」と考えることが大切です。私は小学校で、目標5番に紐づくターゲットには、「家事は労働である」と書かれていることを教えます。多くの家庭では母親が家事をしているので、子どもたちから「家族の家事分担表を作ろう」というアイデアが出てきます。これを日本の小学生全員でやったら、大きく変わりますよね。そんな教育が第一歩。我々の使命は知ってもらうために、しっかり伝えることです。

かく言う私も、毎日が気づきです。大学の授業では、アクティブにアタマを動かす目的で学生に立ち姿勢でワークすることを勧めることもありますが、生理中だとつらいと言われ、初めて気づく。こんなふうに、すべてが“気づき”です。知ればさまざまなことが考えられるし、行動できます。日本のジェンダーギャップは男性が女性を知ることが最優先ですね。

学生に期待することは?

杉浦:未来を考える目線を忘れず、ひらめきの力でマルチに課題を解決すること。たとえば、日本には経済的に化粧品を買うことができない女性がいます。その課題を解決するサービス が誕生しましたが、SDGsの目標3番と5番を日本流に読み解いた両刀の解決策です。ここにいる学生たちは、そんな新しいアイデアの力で世界をより良くできると思います。

まもなく完成する機械を囲んで。学生があらかじめ、学生証情報を登録。学生証をタッチし、利用可能と確認されると、中から生理用品が出てくる仕組み。
編集後記

取材に参加してくれた5人の大学生は個性豊かで、お互いを尊重しながら、情熱を持って楽しくプロジェクトを進めてきたことを感じました。こんなチームビルディングこそ、SDGsに一番必要なことかもしれません。

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